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奥田瑛二 世界を撃った監督バカの怒り

第3作「長い散歩」でモントリオール世界映画祭グランプリなど3冠に輝いた奥田瑛二監督
第3作「長い散歩」でモントリオール世界映画祭グランプリなど3冠に輝いた奥田瑛二監督

「長い散歩」(来年1月13日公開、キネティック)

 監督・奥田瑛二(56)がやった。俳優業を投げ打って転身した奥田の監督第3弾「長い散歩」がモントリオール世界映画祭でグランプリなど3冠受賞、熱い思いを成就した。孤独な初老の男(緒形拳)と、母親(高岡早紀)から虐待を受ける少女(杉浦花菜)の当てのない逃避行を描くハートフル・ムービー。そこには、現実に真っ向から対峙(じ)する奥田監督の深い思いが滲んだ。

 奥田瑛二は「バカ」である。演技派俳優として存在感抜群、引く手あまたの売れっ子なのに「俳優に未練なんてまったくない。やり尽くした」とさっさと“引退”して、ほとんど儲かることのない映画監督になるなんて、賢い役者ならまずしない。だけど、彼は断固「監督」として「10年間に5本作る」ことにこだわる。役者バカは何人もいたが、監督バカなんて見たことがない。

 5年前「少女」、昨年、時代劇「るにん」と一風変わった映画を撮ってきた奥田監督は第3作「長い散歩」について、前作公開時から「2本は助走、次が勝負」と言い続けて来た。現実にひん発する幼児虐待を真っ向からとらえ、ファンタジーの要素を加味して社会に問う、というより心の琴線に直接訴えかける。

 製作動機は2つ。「緒形拳さんとCM撮影で一緒になって映画の話をした。あれだけの大俳優が、今の状況に満足してるのかな? 今村昌平、深作欣二(監督作品)以来、たくさん出てるが、往年のものはない。『じゃあオレが』と挑戦状をたたきつけたんだ」。「るにん」では、松坂慶子と「勝負して」見事甦らせた奥田監督が、再び日本映画の財産の再生に挑んだのだった。

 テーマは「3年半前、新聞で虐待事件を読んで」決めた。自ら原案、妻の安藤和津と今回助監督を務めた長女の安藤桃子、二女安藤サクラ、新人脚本家・山室有紀子の協力を得て書き上げた。「脚本・桃山さくら」は3人の頭文字(山ノ神=妻)。いわば、奥田一家の社会への挑戦状だ。

 「秋田の少年の事件が起きて、アチャーと思った。あまりにもタイミングどんピシャ。でも、破滅に向かう現実と、救われていく者は見れば違う。幼児虐待は30%は救えないが、後の70%は救えるかもしれない。だったら、どうすれば救われるか、を映画にしよう、と。自分で脚本書いてて強烈な憤り、悲しみに包まれて泣きながら書いた」。

 思いのこもった映画は、狙い定めたモントリオール世界映画祭でグランプリ、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞の3冠に輝いた。奥田監督の挑戦は日本どころか、世界を撃ったのである。【安永五郎】

 ◆ストーリー 厳格な校長先生・松太郎(緒形拳)は定年を迎えて娘に家をやりアパートで1人暮らしを始める。厳格すぎて妻をアルコール依存症に陥らせて死なせ、娘の憎しみを買った彼は、昔の思い出だけに生きていた。だが、隣部屋で水商売の母(高岡)と暮らす少女・幸(杉浦花菜)が虐待を受けているのを見かねて、彼女とささやかな交流を始める。母親の情夫から暴力を受けるのを見た松太郎は、男をたたきのめし、2人で旅に出る。止むに止まれぬ行為だったが、松太郎は誘拐犯として警察に追われる。




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